【三代目の視座】ビスを見せない外壁。意匠と機能を両立させる「納め方」の哲学
永盛 斉(Hitoshi Nagamori)
株式会社永盛板金 三代目代表
ある設計士の方から、こんなご相談をいただいたことがあります。「永盛さん、この外壁、コンテナみたいにフラットな壁にしたいんです。でも、ビスが見えるのは避けたい。そんなこと、できますか?」
その一言が、私たちが今「コンテナ風オリジナルサイディング」と呼んでいる仕事の、ひとつのきっかけになりました。金属の持つソリッドな質感を最大限に活かしたい、という設計の意図。その意匠を実現するために、私たちは板金職人として何ができるか。答えは、ビスや継ぎ目といった「ノイズ」をいかに消し、一枚の大きな金属面として見せるか、という技術的な挑戦の中にありました。
外壁は、家の顔です。その美しさは、色や素材の質感だけで決まるものではありません。留め具が見えないこと、継ぎ目が極力少ないこと。そうした細部の「納まり」が、建物の佇まいそのものを静かに、そして力強く変えていくのです。
シールに頼らない、水の「逃げ道」をつくる思考
外壁の話をする前に、まず大原則からお話しなければなりません。それは、外壁板金の役割もまた、屋根とまったく同じ「雨仕舞い(あまじまい)」である、ということです。
雨仕舞いとは、水を「防ぐ」ことではありません。浸入した水を、必ず建物の外へ「受け流す」道筋をつくる思考です。以前のブログで「家は潜水艦じゃない」と書きましたが、外壁も同じです。完全に密閉して水一滴入れない、という思想ではなく、水の性質を理解し、重力に従って下に流れる道をつくってやること。これが私たちの仕事の根幹です。
一般的な金属サイディングの施工では、部材の継ぎ目(ジョイント)や端部に、コーキングと呼ばれるシール材を充填することがよくあります。もちろん、シール材は現代の建築に不可欠なものですが、私たちはそれに頼り切る納め方を良しとしません。なぜなら、シール材は有機物。太陽の紫外線や風雨に晒され、経年で必ず硬化し、痩せ、ひび割れていくからです。
私たちの本分は、板金そのものの形を工夫することで水を切ることです。
金属の板をどう折り、どう重ね、どう勾配をつけるか。この物理的な形状、つまり1次防水で水の浸入の大半を防ぐ。シール材は、あくまでその補助的な役割(2次防水)と考える。この順番を間違えると、数年後にシールの劣化が即、雨漏りに繋がる建物を生み出しかねません。それは、職人としてあってはならないことだと私は考えています。
留め具が消えるとき、意匠と機能がひとつになる
「ビスを見せないでほしい」という設計士の方の要望は、単に見た目の美しさだけの問題ではありませんでした。それは、雨仕舞いの観点からも非常に理にかなった考え方なのです。
考えてみれば当然ですが、外壁にビスを打つということは、建物を守るべき防水層に穴を開ける行為です。もちろん、ビスの頭やパッキンで防水処理はしますが、そのビス頭の周りにはわずかな凹凸ができ、水が溜まりやすくなる。そこから錆が始まることもあります。つまり、ビス穴は潜在的な弱点になり得るのです。
私たちが手がける「ビス隠し」の納まりは、板金の重ねの内側や、隣の板金と噛み合わせる「ハゼ」の部分でビス留めをします。そうすることで、外壁の表面には一切ビスが露出しません。これは、設計士の方が求めるミニマルな意匠を実現すると同時に、壁面に穴を開けない、という防水性能の向上にも直結します。見た目の美しさと、建物を守る機能が、この「ビスを隠す」という一点において、完全に一致するのです。
表から見れば、ただの平滑な金属の壁。しかしその裏側では、水が入らないように、そして万が一入っても外へ抜けるように、複雑に計算された板金の形状が隠されています。見えない部分にこそ、職人の仕事の本質がある。私はそう信じています。
私たちがつくる壁は、一枚の大きな金属の服のようなものです。
縫い目(継ぎ目)を極力なくし、ボタン(ビス)を表に出さない。そうして建物を風雨から守る、機能的で美しい一着を仕立てる。それが私たちの仕事です。
「切りっぱなし」にしない理由。一本もので納める意味。
「神は細部に宿る」とよく言われますが、板金仕事もまったく同じです。特に、金属板の「端」と「継ぎ目」の処理に、その職人の技量と哲学が現れます。
私たちは、板金の端を切りっぱなしにすることは、まずありません。必ず内側や外側に折り返します。これを「あざ折」や「ハゼ」と呼びますが、これには明確な理由が二つあります。一つは、切り口(コバ)から発生する錆を防ぐため。ガルバリウム鋼板などの金属板は非常に錆びにくい素材ですが、切断面は鉄の素地が露出するため、そこから錆が始まる可能性があります。折り返すことで、その切断面を水や空気に触れさせないようにするのです。
もう一つの、そしてさらに重要な理由が、毛細管現象を防ぐためです。ぴったりと重なった金属の隙間は、水を吸い上げる性質があります。切りっぱなしの端を重ねただけでは、雨水がじわじわと壁の内部に吸い上げられてしまう危険がある。端を一度折り返すことで、物理的に水の通り道を「縁切り」し、毛細管現象の発生を断ち切る。この一手間が、壁の寿命を大きく左右します。
継ぎ目についても同じことが言えます。継ぎ目は、構造上の弱点です。だからこそ、私たちは工場で加工できる限り長い「一本もの」の材料を使い、現場での継ぎ目を極力なくすように努めます。建物の高さや幅に合わせて、一枚一枚、オーダーメイドで長さを決める。やむを得ず継がなければならない場合も、水の流れを読み、風向きを考慮し、十分な重ね幅を確保して、水が逆流しない納め方を考え抜きます。
設計士の意図を汲み、板金で応えるということ
1926年(大正15年)の創業以来、初代である祖父の時代から、私たちは「板金屋」です。建物の色や形を決めるのは、施主様であり、設計士の方々です。私たちは、その領分を侵すことはありません。
私たちの領分は、決められた意匠と寸法の中で、「どうすれば、より美しく、より永く建物を守れるか」という「納め方」を考え抜き、私たちの手仕事(craft)でそれを実現することです。
建築業界は分業が進み、それぞれの専門性が高まりました。それは素晴らしいことである一方、時に「ただ、そこに取り付ける」という仕事になってしまう危険性も孕んでいるように感じます。業界の構造が、そうさせてしまうのかもしれません。しかし、私たちはあくまで板金職人として、素材の特性を深く理解し、この群馬の地の気候を肌で感じ、10年、20年、50年先の建物の姿を想像しながら手を動かしたい。先々代から受け継がれてきた技術と、現代の建築が求める意匠。その二つを融合させ、次の世代の職人たちに繋いでいくことが、三代目である私の責任だと思っています。
ビス一本を見せない、という細部へのこだわり。それは、私たちの自己満足ではありません。意匠の美しさを求める設計士の想いと、永く安心して暮らしたいと願う施主様の想い、その両方に応えるための、私たちなりの誠実な答えなのです。
外壁のことで何か気になることがあれば、いつでもお声がけください。職人として、正直にお話しできることだけをお伝えします。
よくあるご質問
Q1. なぜビスを見せない外壁にするのですか?
見た目の美しさ(意匠性)と、壁に穴を開けないことによる防水性向上の両方を実現するためです。ビス穴は潜在的な雨漏りの弱点になり得るため、それをなくすことは建物を永く守ることに繋がります。
Q2. シール(コーキング)に頼らないのはなぜですか?
シール材は紫外線などで経年劣化し、必ず硬化やひび割れを起こすからです。私たちはシールを補助的な2次防水と考え、板金自体の形状(折り方や重ね方)で水を排水する1次防水を本分としています。
Q3. 金属板の端を「切りっぱなし」にしないのはなぜですか?
主に2つの理由があります。1つは切断面からの錆の発生を防ぐため。もう1つは、水を吸い上げる毛細管現象を防ぎ、壁内部への水の浸入を物理的に断ち切るためです。この一手間が壁の寿命を左右します。
Q4. 「一本もの」の材料にこだわるのはなぜですか?
現場での「継ぎ目」を極力なくすためです。継ぎ目は構造上の弱点であり、雨漏りのリスク箇所になります。建物の寸法に合わせた長い材料を使うことで、防水性と美観の両方を高めることができます。
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まとめ:ビス一本に宿る、職人の哲学と誠実さ
ビスを見せない外壁は、設計士の意匠と施主様の願いを両立させる私たちの答えです。シールに頼らず、板金の形状で水を納める。端部処理や継ぎ目にこだわり、1926年から続く技術で建物を守ります。見えない部分にこそ職人の本質があると信じ、私たちは一枚の金属に誠実に向き合っています。
株式会社 永盛板金
三代目代表 永盛 斉
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1926年から続く知見と、職人の手仕事で、お住まいをしっかりお守りします。
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