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【職人の挑戦】シンプルを極める。役物を使わない立平葺きの庇



【職人の挑戦】シンプルを極める。役物を使わない立平葺きの庇

永盛板金 施工写真

永盛板金 施工写真

永沼健太 一級技能士

永沼健太 一級技能士

一級建築板金技能士

はじめに ― 「とことんシンプルに」というご要望から

こんにちは!永盛板金 職人の永沼健太です。
今回は「とことんシンプルに」というご要望を形にした、庇(ひさし)の立平葺き施工をご紹介します。余計なものを削ぎ落とした先に宿る、板金職人ならではの細工をご覧ください。
建物の佇まいを引き締めるのは、案外「足し算」よりも「引き算」のほうです。装飾を盛るほどに、線は曖昧になり、輪郭はぼやけていく。1926年から続く永盛板金の現場でも、私は「ここまで省いて大丈夫か」という緊張感のある仕事ほど、最後にきれいな影を落とすことを何度も見てきました。今回はその、引き算の仕事の話です。

1. 棟の役物をなくす、ハゼ締めの細工

永盛板金 施工写真

永盛板金 施工写真

通常、屋根の頂点には「棟役物」などの部材を使いますが、今回は究極のシンプルさを求めて役物を一切使いませんでした。板金を直接折り込み、ハゼを締めることで雨水を防ぐ。余計な部材を省くからこそ、一級技能士としての確かな折り込み技術が問われる仕事です。
業界の構造として、役物は「保険」として広く使われてきました。継ぎ目の処理に自信が持てない時、被せ物でカバーすれば誰がやっても一定の水準に揃う。仕組みとしては合理的です。ただ、被せれば被せるほど、屋根のシルエットには段差と陰が増えていきます。私が今回選んだのは、その保険を外し、折り目そのものを仕上げにする道でした。ハゼの角度、折り込みの強さ、出る端部の通り。どれもミリ単位で詰めていきます。

2. 玄関上だけに潜ませた「隠し谷樋」

永盛板金 施工写真

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外装をスッキリさせるため軒樋を設けていませんが、人が出入りする玄関上だけは、雨だれでお客様を濡らすわけにはいきません。そこで、玄関部分の内部にだけ谷樋を施工しました。表からは見えない場所に、住む人の使い勝手を考えた機能を隠し持たせています。
「軒樋がない家」と聞くと、多くの方は雨だれを心配されます。確かに、すべての軒先で雨水を放り出してしまえば、地面の跳ね返りや基礎まわりの汚れにつながります。けれど、本当に困る場所は限られています。家全体の中で雨だれが致命的に問題になるのは、玄関や勝手口といった「人が立ち止まる場所」のみ。そこにだけ谷樋を仕込めば、外観のスッキリさは保ったまま、暮らしの不便を消すことができます。私はこれを「全部つけるか、全部やめるか」の二択ではなく、必要な場所にだけ機能を置く設計と呼んでいます。

3. 目立たない場所にこそ、職人の誠実さが宿る

「何もない」ように見えて、実はその裏で複雑な加工を施している。それが板金職人の仕事の醍醐味です。建物の佇まいを整え、なおかつ必要な場所でしっかりと雨を防ぐ。目立たない場所にこそ、職人の誠実さが宿っています。
完成した庇を、お施主様と一緒に少し離れた場所から眺めた瞬間がありました。「何も足していないのに、こんなに整って見えるんですね」――その一言を聞いた時、職人として報われたと感じます。役物に頼らず、軒樋にも頼らず、それでも雨に強く、暮らしに優しい。1926年から続く永盛板金の手仕事は、こうした「見えない誠実さ」の積み重ねでできています。

よくあるご質問

Q1. 棟に役物(キャップ)を使わなくても大丈夫ですか?

A. はい。ハゼを締め、完璧に折り込むことで高い防水性を維持できます。部材が少ない分、劣化による浮きや飛散リスクを抑えられ、見た目も美しく整います。ただし、確かな折り込みの技術があってこそ成立する仕様であり、現場の状況によって最適解は異なります。

Q2. 軒樋(のきどい)がないと不便はありませんか?

A. 落ち葉詰まり等の掃除が不要になるメリットがあります。最も雨だれが気になる玄関上には「隠し谷樋」を設けているため、実用面でも安心です。雨水の落下位置と地面の素材を事前に確認したうえで、ご提案するかどうかを判断しています。

Q3. このような特殊な納まりはどこでも可能ですか?

A. 手加工の技術が必要なため、どこでも可能とは言えません。一級建築板金技能士としての経験を活かし、現場ごとに最適な細工をご提案しています。屋根の勾配、雪の有無、近隣との距離など、現地を拝見してから判断させていただきます。

Q4. そもそも「立平葺き」とは、どんな工法ですか?

A. 細長い金属の板を縦方向に並べ、隣同士の継ぎ目を立ち上げて「ハゼ」と呼ばれる折り込みで一体化させる、金属屋根の代表的な葺き方です。継ぎ目が縦に通るため表情がすっきりとし、雨水も流れやすく、勾配が緩い場所でも雨漏りに強い特徴があります。庇のように小面積で意匠性が問われる場所にも適した工法です。

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今回の庇は、役物に頼らず、軒樋にも頼らない引き算の仕事でした。同じ思想で書かれた、永盛板金の関連記事をご紹介します。

まとめ:シンプルさと機能を両立させる、板金の挑戦

「シンプルさ」と「機能」を両立させる。これは言うほど簡単ではありません。装飾を盛れば建物の輪郭は鈍り、機能を全部削れば暮らしは不便になる。その間に、職人として一本の線を引くこと――それが今回の挑戦でした。棟役物を使わずに板金を直接折り込み、軒樋をなくしながら玄関上にだけ「隠し谷樋」を仕込む。削ぎ落とした先に、必要な機能だけが静かに残る。1926年から続く永盛板金の手仕事を、群馬県太田市から心を込めてお届けします。私たちは今日も、最高の一手を創り続けます。

永沼健太 一級技能士

株式会社 永盛板金
一級建築板金技能士 永沼健太

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